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ショート小説『彼女のルール違反』

彼女のルール違反

 

山下直人

 

11月某日。ファミレスで陽子と食事をしていた。

『あのスピードはないやろ。怖いし捕まるぞ』

僕は陽子の車の運転に不満を言った。

『何で?』と陽子はニヤニヤしながら言った。

『何でか?』と僕は言ってから言葉が出なかった。

『まぁ硬い事言うなって!』

陽子はそう言いながらバニラアイスの乗ったスプーンを僕の口元に持ってきた。

陽子はアイスを口入れる事で、文句を言おうとした僕の口をふさいだ。

僕と陽子は付き合ってからまだ3週間だ。

出会ったのは半年前だが、3週間前、陽子に告白された。

陽子は僕にはもったいない女だと思っていたので告白は意外だった。

だから、僕に断る理由などなかった。

 

僕と陽子は同じ会社の先輩後輩という関係だ。

僕の仕事は車などの機械部品の設計で、強度計算などを行い

最適な部品形状などを顧客へ提案したりする。

顧客の要求を満たせなければ、当然仕事は終わらない。

だから平日も22時以降の深夜残業は当たり前だった。

朝は9時出社で夜は時に24時を回ることもあり

そんな生活を続けている内に早5年以上が経とうとしていた。

僕は希望通り設計エンジニアという職についたが

不規則な生活を過ごす内に自分の人生に不安を感じていた。

それは、このまま変化もなく過ごしていくのだろうかという漠然とした不安だった。

そんな感情を抱くようになった入社6年目の春に陽子は入社してきた。

僕は27歳、陽子は24歳の時だ。

陽子はトレーサーとして中途入社してきた。

トレーサーとは設計者の指示に従い図面を描く事を専門とする職種だ。

僕の会社のトレーサーはCADに向かいひたすら図面を描いている。

僕のような設計者の指示に従い、図面を作成し仕事を遂行していくのだ。

陽子は僕の仕事を担当するトレーサーとして入社した。

 

4月某日。陽子の入社初日。

上司であるチームリーダーに連れられて陽子が部屋に入ってきた。

リーダーは黒ぶち眼鏡をかけ、唇や鼻や眉毛が分厚い風貌の持ち主だ。

目は垂れ目で大きく、身長も180cmはあるであろう大柄な体格だ。

髪は前髪が少し薄くなっており、全体的に白髪が目立ってきている。その横に150センチほどの小柄な陽子が並んでいる。

『えぇ〜、今日から我々の仲間に加わりました関井陽子さんです。主に兼子くんの仕事を担当してもらいますが、他の人たちも彼女が困っていたら色々とサポートするようにお願いします。では関井さん、自己紹介をお願いします』

チームリーダーは前で話すのに慣れていないせいか

やや緊張した口調と面持ちで陽子を紹介する。

僕が所属する部署は合計8人と小さい部署だが部屋は広い。

8人が個人用デスク2台を所有するような悠々自適なオフィスだ。

体格が良くても声が小さいリーダーが皆の前で話しても部屋が広いのでよく聞こえてこない。陽子はリーダーに促された後、自己紹介をし始めた。

『本日からこちらでお世話になります関井陽子です。

まだ初日で緊張しておりますがよろしくお願いします。』

ありきたりな表現で終わったが、陽子の声は耳の中に響いて余韻が残るような声だ。

部屋に響きわたるような声だが、嫌味のある大きい声でもなく好感のもてるものだった。

 

陽子は身長は低いがスタイルは良い。髪型はショートカットで黒に近い茶色で染めている。

髪質はストレートだ。頬はふっくらとしているので童顔に見える。

程よく塗られたマスカラがぱっちりとした目を強調している。

化粧は薄めだが、スッピンではない。

そのナチュラルさが陽子の魅力に思えた。

黒が基調のシックなスーツを着こなしているせいで

童顔の顔が引きしまって見えた。

そのせいか、童顔だけど大人びている、、、

そんな不思議な雰囲気を醸し出していた。

 

僕は初日にも関わらず陽子に一目ぼれした。

僕は生れて初めて“神”とやらに感謝し、仕事を頑張ってきて良かった!と胸を躍らせた。

それまで抱えていた漠然とした不安など吹き飛んだ。

僕は近い将来、陽子に告白すると決めた。

しかしその後、タイミングをつかめずに時間が過ぎ去っていった。

理由は単に勇気が出ないのときっかけを作れなかったからだ。

3年前に好きな子に告白し、振られた事を引きずっていたという事もある。

『男として見れない』という理由で振られた事は

僕にとってかなりへこむ出来事だったからだ。

そんな過去の出来事を乗り越える為にも

陽子に対する恋愛感情は大事にしたいと考えた。

当然、慎重になったりもする。

その結果、告白する内容をあれこれ考えている内に

半年近く経過し、あげくの果てに陽子から告白されたのだ。

 

入社後、陽子は僕の仕事の指示に積極的に応じ仕事をこなしてくれた。

図面のセンスもよく、図の配置など良く整っており

陽子の人格は、描かれた図面が代わりにアピールしているようだった。

僕は陽子が描いた図面をチェックしながら、ますます陽子を好きになった。

依頼書などの事務的な作業もすぐに覚えてくれたので

入社3か月後には、一度指示するだけで仕事をこなせるようになっていた。

陽子はルーチンワークを一通り覚えてしまうと

物足りなくなったのか、僕に改善提案を行うようになってきた。

文房具類はここへまとめた方が良いだとか

CADデータはこういう分類をした方が良いとか

どんどん効率化する為のアイデアをしてきた。

僕は陽子の積極的な提案を嬉しく思っていた。

理由はほかでもなく僕が陽子を好きだったというのもあったが

真面目に助かる提案だった。

 

一カ月前、チームが抱えていた大きなプロジェクトが終わった。

チーム内でも僕が一人で担う部分が多かったが

陽子の頑張りで仕事がスムーズにいった。

僕は、陽子の存在は僕だけでなく、チーム全体を助けている事に気付いていた。

担当しているのはまだ僕の仕事だけだが、陽子の仕事のスピードと手際の良さが

チーム全体の仕事のテンポを良くしたと確信していた。

野球で言えば、ピッチャーのテンポの良さが守備にまで影響する話とよく似ていた。

 

僕はプロジェクトの打ち上げの席でその事を皆の前で話し、陽子を絶賛した。

陽子を絶賛する事で、告白出来ないもどかしい気持ちを紛らわそうという気持ちもあった。

リーダーや同僚たちは僕に

『お前、わかりやすい奴だな!酔いにまかせて告白かよ!』とからかってきた。

ただ、僕はその後も本気で陽子の良さをアピールし続けていた。

 

打ち上げが終わり店の前で、同僚の幹事が会計を済ますのを待つ。

その時に、陽子が僕に近づき耳打ちしてきた。

『あとでちょっと話があるんですけど』

 

僕と陽子はメンバー全員が帰った事が確認できた後

駅裏のコンビニでおちあい、まだ空いている居酒屋に入る事にした。

僕と陽子はウーロン茶を二つ頼んだ。

『話って何?いきなりどうしたん???』と僕から切り出した。

『さっきは私の事、あんな風に言ってくれて本当に嬉しかったです。

兼子さん、お酒飲めないからあれが本気の言葉だってわかるし。

仕事中は結構厳しいなと思っていたし、てっきり評価されてないかと』

と陽子は表情を変えずに言った。

『いや、ほんまの事やで。良い仕事しとったで』

と僕は笑顔でゆっくりと感情を込めて言った。

すると陽子は僕を真顔で見つめ始めた。

『良ければ私と付き合ってくれませんか?』と陽子が言った。

『へ!?』と僕はのけぞりながら言った。

陽子はコクリと首を縦にふる。僕の回答を無言で待っているようだ。

僕は内心、喜びで気が狂いそうになり、言葉が出てこなかった。

半年近く告白出来ずにいた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

『お、俺でええの?』と僕は恐る恐る聞いた。

『うん』陽子は首を縦に振って言った。

 

こうして、僕は陽子と付き合う事になった。

時間かけて悩んだのに意外とあっけないなと思った。

同時に、大変なのはこれからだとも思った。

まず一番の問題は職場恋愛である事だ。

だから、僕と陽子はルールを決めた。

仕事は仕事、恋愛は恋愛と割り切るようにした。

職場には付き合っている事も公表しない事にした。

何かと面倒な事になりそうだし、仕事にも影響すると思ったからだ。

とにかく周囲にばれそうな行動は避けると約束し合った。

 

ただ最初は、僕は陽子と付き合えた嬉しさが溢れそうだったので

ルールを破ろうとすることで愛情をアピールしたりした。

例えば、僕が陽子に仕事の指示をする際に小声で

『今晩、早めに上がれるから夕飯食べにいかへん?』と聞いたりする。

すると、陽子は同じく小声で『今度言ったら殴るわよ』と目を合わさずに言ってくる。

そう言う時の陽子の目は本当に怖かったので、僕はすぐに仕事に戻る。

同時に陽子の本性が少しずつわかる気がして、もっと試したい気分にもなった。

 

付き合ってからは結局、食事に誘ってきたりするのは陽子の方だった。

僕は実際仕事に追われていたので、ちょっかいをかけるだけで精いっぱいだった。

トレーサーの陽子は大抵僕より先に会社を出る。

僕が早く帰れると予想出来る日には食事に誘ってきてくれる。

一緒に仕事をしている利点だった。

陽子からの誘いは携帯メールで送られてくる。

僕が仕事中に携帯メールを確認すると、早めに切り上げるように努力する。

僕はこうした努力を今までした事がなかったので、視野が広がった気がした。

僕と陽子はファミレスで食事する事が多かった。

二人とも稼ぎは多くないと認識し合っていた為、ファミレスで安めに済ませる事が多い。

二人の時間を共有してわかりあう事を優先した。

僕は陽子と付き合い始め、仕事やデートに満足し幸福感に満たされていた。

しかし、僕は陽子の運転だけは気にいらなかった。

大抵、僕が陽子の車の助手席に乗る事が多い。

ファミレスなどの目的地に向かう道中は正直恐怖だ。

陽子はスピード狂だったのだ。

仕事の時の几帳面な図面描きの姿とは大きくかけ離れていた。

付き合ってからわかった事だ。

右折、左折、一旦停止などのあらゆるシーンで陽子のブレーキングは遅かった。

陽子はブレーキを出来る限り遅く踏み、コーナーリングスピードを速く保とうとする。

だから当然、コーナーリング中は僕の体は横Gにさらされる。

僕は道路のコーナーにさしかかる度に“空想ブレーキ”を何度も踏むようになった。

そういった恐怖が嫌だったので、陽子の運転について文句をつけると

決まって優しい口調で、あの手この手を使い、僕をなだめる。

ファミレスでアイスを僕に食べさせる事で、うるさい僕の口を塞ぐのも一つの手段だった。

 

逆に、僕が車を運転している時、陽子はキスを求めてきたりする。

僕は拒否しようとすると、陽子は僕の左太ももを思い切りつねくってくる。

これが全身にしびれがくるくらい痛い。

『女心がわからないのね』などとも言ってくる。

僕は仕方なく顔を陽子の方に向けて、片手でハンドルを持ちながら

横目で前方を見るという運転を覚えていく事になる。

徐々に本性を現していく陽子を見ると、ゾクゾクする反面

この先仕事がどうなるのか怖かった。

しかし、意外にも職場では何も要求してこなかった。

陽子は仕事に影響するようなリスクは犯してこなかった。

 

変化が起きたのは付き合ってから3カ月後だった。

陽子は暗黙のルールを徐々に破り始めた。

陽子はここまでは大丈夫だろうという読みをするようになった。

僕は割り切って仕事をする事を続けていたが、陽子は違った。

まるで、仕事中にも危ない運転をするかのごとく、危険領域に踏み込もうとしてくる。

リスクを冒すことを楽しむのが本来の陽子の姿だったのだ。

当初、僕が陽子にしていた様なちょっかい程度のルール違反とは比べ物にならなかった。

 

ある時は、付箋紙に「キスして」と書いて、僕への提出用図面に張り付けてくる。

僕は図面をチェックする際に、その付箋に気付くと

心の中でずっこけながら、付箋紙をさりげなくゴミ箱へ捨てる。

僕のリアクションを見た陽子は表情できぃーっとしながら怒りをあらわにしてくる。

 

ある時は、仕事依頼用の指示書を僕が陽子へ渡す時、わざと僕の手を握ってきたりする。

僕が目をパチクリさせながら小声で「お、お前。。。」とつぶやく。

陽子の手を無理やりほどこうとすると

陽子は歯を食いしばった様な顔で怒りをあらわにする。

 

またある時は、提出する図面に「今晩食事に行きましょ」とデカデカと描いて来る。

部品の大きさを示す寸法が記入されるべきところに。

さすがに図面での攻撃は、仕事に直接影響するので叱りつけようと思ったが

陽子は僕の行動を予想しているので、ちゃんと提出すべき図面も印刷して用意していた。

僕が陽子に迫ろうとすると、陽子は『はい、これでしょ』と言って

僕の胸のあたりに図面を差し出し、そっけない態度で自分の席に戻っていく。

こういったやり取りが何度も続いた。

 

陽子は僕が仕事の指示をしにくる時、周囲の状況を“既に”把握している。

陽子は状況を見極めるのがうまかった。

その証拠に、僕が陽子にルール違反をしかけられて焦っても

周囲は意外なくらい注目していない。

だから、スピード狂でも事故せずにいられるのかと

僕は陽子の状況判断力に逆に感心したりした。

僕は週末のデート中に陽子の仕事中のルール違反を注意しているが

一向に止める気配はなかった。

『あなたの反応を見てると面白くて仕方ないの』

陽子は僕のリアクションを気にいっているようだ。

 

陽子のルール違反が始まってから18日が過ぎた。

数多くの陽子の違反をそっけない態度で流し続けてきた。

そんな僕の態度に飽きてきたのか、陽子はさらに違反をエスカレートさせていった。

今度のちょっかいは再び付箋紙から始まった。

付箋紙には「あなたがキスしないなら私も仕事しない。」と書いてある。

下の方には“KISS=仕事”と、勝手な方程式が書かれている。

僕は一瞬お見事と思ったので、陽子にガッツポーズを見せた後

やはりいつも通り、付箋紙をまるめてゴミ箱に捨てた。

それから、陽子の方を見ると

陽子はいつもの怒った表情で図面を破るようなしぐさを見せてきた。

僕は単なる脅しかと思ったので、自分のPCに向かい仕事を進めた。

でも陽子のいつもとは違うアクションに不安を感じた。

僕が再度、陽子の方を見ると、陽子は図面をシュレッダーにかけようとしていた。

僕はあわてて席を立ち、陽子の方へ行った。

僕はさすがに痺れをきらした。

『関井さん、ちょっと上で打ち合わせしよか』と作り笑顔で声をかける。

僕は場所を移動して話したかった。

部屋を出て左に5メートルほど歩いた正面にエレベータのドアがある。

僕らのフロアは3Fだった。

僕は9Fの喫煙所などのある打ち合わせコーナーへ行こうと陽子を誘った。

僕は打ち合わせにみせかける為、脇には手帳や適当な書類を抱えている。

エレベータのドアが開き、僕と陽子は中に乗り込む。

9Fのボタンを押し、ドアが閉まると同時に僕が口を開く。

『お前なぁ、、、あれはなんだよ〜、、、仕事だろう?』

『いいじゃん。硬いこと言わずにもっと楽しみましょうよ』

陽子は満面の笑みを浮かべる。

僕はその笑顔には癒されるが、不安の方が今はまさった。

エレベータのドアが開き、9Fに到達する。

僕と陽子は打ち合わせコーナーへ向かう。

来客者を応対するのに使用されたりするが、この日は誰もいなかった。

パーテーションで仕切られているので、ある程度は誤魔化せる。

僕は陽子と窓際のゾーンで話し合う事にした。

僕は机の上に書類などを置き、椅子へ座る。

陽子も僕の対面の椅子に座る。

誰か来ても良いように、僕と陽子はお互いに書類を見つめながら話す。

『あんな場所でキスなんて無理やろ?』と僕は声を殺しながら言った。

『なんで?』と陽子はぶっきらぼうに答える。

『そういうルールにしたやんか?』と僕が言うと

『大丈夫よ。ばれないんだから』と陽子はかえしてくる。

『ばれたら面倒な事になるからって二人で決めたやろ?』と僕はゆっくり言った。

『どうせばれないのに何でそんな慎重なの?硬いこといわないでよ』と陽子は言った。

『・・・やっぱりこういう議論になるわけね』と僕は顔をしかめて言った。

この後も会話が堂々巡りなるのが予想できたので僕は話を切り上げる事にした。

『とりあえず下に戻って、頼んだ図面は描いておいてな』

と言いながら僕は席を立った。

陽子も無言でついてくる。

僕と陽子はエレベータに乗った。

僕が3Fのボタンを押した時、真後ろに気配を感じた。

陽子が後ろにべったりくっついて立っていた。

『う!? あ、あの陽子さん、、、ちかいんですけど。』

僕がそう言いながら振り向くと同時に陽子が唇を合わせてきた。

拒否しようとしたがエレベータの中だったので、このままでも悪くないなと思った。

約9秒が経過した後、エレベータの慣性力の変化を感じた。

エレベータにブレーキがかかった時の力の変化だ。

という事はそろそろ3階だ。

僕は陽子をどかそうとしたが

右手は陽子がいつのまにか掴んでいて、左手は書類を抱えていた。

このままじゃ陽子をふりほどけずにドアが開いてしまう。

ドアの向こうに誰かがいたらまずい。

僕はとっさに左手に持っていた書類をぶちまけることにした。

さすがの陽子も驚き、キスを止めて、一緒になって拾う。

既にエレベータのドアは開いていたが、幸い誰もいなかった。

僕と陽子はエレベータを出る。

 

『あ、あぶねぇな。。。い、今のはやばかった。。。』

と僕は歩きながら言った。

陽子は僕の後ろをついてきながら

『もうルールなしにしよか?面倒くさいな〜』と言ってきた。

『頼むから、もう許してください』と僕は一方的に謝り始めた。

『そのさ、石橋をたたいて渡るような態度は何よ。気にしすぎよ。そんなんで面白い?』

陽子はいきなり開き直りのような強い口調で言ってきた。

『面白いという議論じゃないやろ? 二人で決めたルールは守ろうぜ』と僕は言った。

『いつもいつもルールって、ルールの方が私の愛情表現より大事だなんて悲しいわ』

陽子は口を真一文字にしながら言った。

僕は心の中で「まったくかみ合わないなぁ」と思いつつも

『陽子、ごめんな。そんな気持ちさせるつもりはなかったんだ』と言った。

『ばれても良いじゃん。それとも冷めたって事???』と陽子は冷ややかに言う。

『そんなわけないやろ!』と僕は言った。

『じゃぁ証明しなさい』と陽子は既に勝ち誇ったように腕を組んで言う。

僕は陽子に目を閉じながらキスをした。

しばらくキスし続けた。

18秒は経過した頃に、ガチャッと音を立てながらドアが開いた。

ドアを開けた人物は黒ぶち眼鏡をかけたチームリーダーだ。

リーダーはドアを開け、僕と陽子の姿を見るや否や

『あ、、、』とだけ発した後、表情一つ変えずに再びドア閉めた。

 

『あれま(笑)』と陽子は思わず言葉を漏らす。

『あれま?じゃないやろうがぁ』と僕はうなだれて言った。

『どうすんや、、、』

『さすがにごめん。。。ばれちゃったかな?』と今度は陽子が謝ってきた。

陽子からの素直に謝る言葉に僕は癒されたが、もうそれどころじゃなかった。

さっきまで普通に出入りしていたドアが今はまったくの別世界の入り口に感じた。

そのドアは、慎重な僕に脱皮を促しているような感じがした。

(了)

 


 



 

 

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